• Jul.
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  • 16
  • 2021
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欧州イノベーションハブをめぐる:第9回
中東欧をリードするフェニックスシティ
ワルシャワ

シリーズ9回目は、辛い過去を乗り越えて成長を続けてきたという日本とも共通する背景を持つポーランドの首都、ワルシャワを特集します。欧州でも際立つ経済的安定とSTEMに強い人材の存在から、特に近年は世界中の大手企業がイノベーション、R&D拠点を設置するテックハブとなりつつあるワルシャワの魅力を、今回は弊社のイノベーションネットワークパートナーであるSpeedUp Venture Capitalのコメントとともにお届けします。

 

『灰からの再興都市』として知られるワルシャワ

ポーランドの首都であるワルシャワは、第二次世界大戦後の再興など、戦乱を乗り越えて政治・経済・文化・学問の中心地として栄えてきたことを理由に、フェニックスシティという名でも知られています。近年ポーランドが、中東欧(CEE)域内1.5億人とも言われる人口の約25%、また30%にのぼる最大級の経済規模により、その存在感を放っていることから、その首都であるワルシャワでもその勢いは増し続けています。

 

欧州随一の経済的安定とSTEMに強い人材

欧州内でワルシャワの重要性が増している背景には、国家としての特徴に関連する複数の理由が挙げられます。第一に、その経済的安定と投資へのポテンシャルです。ポーランドは、CEEトップ、欧州全体でも第6位となる経済規模を誇る上、1989年以降の不況は2001年の数ヶ月間とその安定性は抜群で、昨年のパンデミック下でさえもGDP減少率はEU最小レベルに抑えることに成功しました。また、CEE地域内最長の法人所得税免除期間が適用される『ポーランド経済圏』という新たな投資支援システムや、R&Dに関する税額控除をはじめとする政府による取り組みにより、2019年には対内直接投資額で欧州7位となりました。

また教育面も重要な役割を果たしており、25〜64歳の国民のうち92%(OECD加盟国平均は78%)が少なくとも中等教育を受けているポーランドでは、130万人の学生(欧州4番目)の多くが、高等教育でSTEMを専攻しています。またOECDが15歳の生徒を対象に実施した「生徒の学習到達度調査2018(PISA)」でも、数学的・科学的リテラシー、読解力など全てのカテゴリーでエストニアに迫るトップパフォーマンスを見せています。

その結果、ポーランドは熟練した労働者に恵まれています。Harvard’s Business Reviewは、若い人口がSTEMに強い傾向があることもあり、テックスキルの高い国家としてポーランドを世界5位に位置付けました。またHackerRankによる優秀なプログラマーが多い国ランキングでも、世界3位にランクインしました。さらに欧州キャッシュレス国トップ6に入るなど、その市場消費者も、非常に進歩的であるとも言われています。

 

ローカルスペシャリストが語る魅力

今回、弊社はイノベーションネットワークパートナーであるSpeedUp Venture Capital Groupにその強みについて伺いました。同社は、シードからシリーズAまでのアーリーステージ企業に投資を行うポーランド有数のVCファンドであり、グローバル市場に目を向けるCEE地域内の起業家・企業へ焦点を置いています。またその注力・関心分野は、Eコマース、モビリティ、エネルギー、 メドテック、IoT、ハードウェアからAI、AR/VR、ブロックチェーンまで多岐にわたります。

「ポーランドのエコシステムは、NCBiRPFR Venturesなどの公的機関からの支援により、ますます成熟し、これにより多くの個人投資家が革新的なプロジェクトに投資するようになっています。また優れたエンジニア及び技術者が揃っている上、彼らの提供するサービスは西欧よりも安価であることも、そのエコシステムをさらに魅力的にしています。これらを理由に、ポーランドではディープテックなどの領域で興味深いソリューションが多く存在しています。また国内ではゲーム業界も力強くダイナミックに発展しており、多くの新しいソリューションを持つ企業が既に上場や国際的な成功を収めています。さらに大企業とスタートアップの提携及び共同ソリューション開発を促進するアクセラレーションプログラムも数多く存在しており、アジア大手企業からも高い関心を得ています。」

 

重要視される『将来の欧州都市』

投資レベルにおいても、CEEの重要性は増すばかりです。2015年からの5年間、域内への投資は4倍以上となる18億ドルに達し、その伸び率は西欧の2倍とも言われています。PFR Venturesによると、ポーランドは国内一のテックハブであるワルシャワを中心に、2019年だけで過去9年間の総額以上となる約3億ユーロの投資を受け、その勢いを保ったまま2020年も過去最高額となる4.7億ユーロのVC投資を記録しました。そして、その資金の半分近くが米国から注ぎ込まれているという点も、興味深い特徴と言えます。一方、投資ラウンド数も、2013年以降は2位のエストニア(477件)の倍近くにのぼる823件で、CEE域内のトップを走り続けています。そんな中、ワルシャワは、fDi Intelligenceが発表する『European Cities of the Future 2020/21』で6位にランクインしており、将来が期待される都市となっています。

 

ワルシャワのスタートアップエコシステム

ポーランドには、3000社以上のスタートアップ、300ヶ所以上のコワーキングスペース、130社以上のVCが存在している中、ワルシャワ在の投資家向けに行われた最新調査では、同ハブの注目セクターとして自動化、AI、エンタープライズSaaS、クリーンテック、ヘルス、リモートワーク、シェアリングエコノミーなどが挙げられています。

ワルシャワ発スタートアップとしては、ヘルス&ビューティ専門店への便利な予約ツールとして米サンフランシスコにも拠点を設立しているBooksy、フィンランド企業でありながらもワルシャワからもオペレーションを行う小型SAR衛星のIceye、ゴールドマンサックスも出資する医師との面談予約プラットフォームのDocplannerなどが既に大規模ラウンドに成功しています。

 

海外からの支援・進出が目立つ投資家部門

スタートアップを支える投資家部門では、CEE地域最大のファンズオブファンズであり、VC及びPEファンドに資本を提供する機関投資家LPであるPFR Venturesがポーランドの中心組織となっています。彼らはあらゆるステージの革新的なポーランド企業を対象に、現在までに50以上のファンド、250件の投資案件を取り扱ってきました。また今年4月にポーランドを中心としたCEE地域のテック企業への投資資金として5400万ユーロを調達したInovoも国内随一のVCとして知られています。

アクセラレーターでは国外からの支援が目立ち、米マサチューセッツ工科大学との提携によるMIT Enterprise Forum CEEは、MIT Enterprise Forum Global及びMIT Technology Review の知識に基づき、ポーランドを中心としたCEE企業に実践的な知識、メンターシップ、リソースへのアクセス、また米国をはじめとする国際市場におけるスケールアップへのサポートを提供しています(選定企業は、米ボストンでのブートキャンプに招待)。さらに仏テレコム大手のOrangeも、顧客体験、AI、IoT、ビッグデータ、Eコマース、VR、サイバーセキュリティなどの分野で採用可能な新技術とサービスを発掘するため、12週間のプログラムOrangeFab Polandを運営しています。

他にも大学付属のインキュベーターとともに、アイデアから特許出願、学内施設や知識へのアクセス、スピンオフ企業の設立、ライセンス提携など商業市場での実装に向けた活動を支援するthe University of Warsaw のUniversity Technology Transfer Centre、国内だけでなく米英独などの海外企業のポーランド展開とコラボレーション促進により、イノベーションハブ構築を目指すStartup Hub Polandなどがその基盤構築に貢献しています。

CEE地域の中で最も競争力が高いITセクターが存在すると言われるポーランドの首都であるワルシャワでは、海外大手企業もその活用に動いています。代表的な例として、Googleは、市内スタートアップ及びエコシステムをサポートするためのCampus WarsawGoogle Cloudを運営する一方、投資プログラムを通して大手企業とスタートアップのコラボレーションを促進するThe heartには、MasterCardやSamsungが参加しています。また昨年にはMicrosoftが国内イノベーションとDx促進のためにワルシャワ近郊に10億ドル規模の投資を発表しました。加えて、Samsungは最大規模のR&D施設を、さらにHuaweiも先に述べたStartup Hub Polandと HuaweiStartupChallenge というプログラムを運営しています。

 

最後に、、、

辛い過去を乗り越えて成長を続けてきたという日本とも共通する背景を持つポーランドは、その成長促進のため、近年、特に教育・人材強化により、イノベーションに適したビジネス環境を生み出してきました。その結果、経済的に急成長するCEE地域をリードする優れたエコシステムとして、毎年の投資額増加に加え、グローバル大手企業からもイノベーション、R&Dの中核地域として選定されるなど、ワルシャワが世界から注目を集めていることは明らかでしょう。

優れた人材の割に低賃金の労働力ということもあり、ワルシャワ近郊には中東欧地域を担当する営業拠点や生産拠点の設立という形で既に多くの日本企業が進出していますが、テックハブとしての見方はまだ浸透していないかもしれません。しかし、既にCEE地域トップ、また西欧を比較しても決して劣ることのないワルシャワのポテンシャルを無視することはできないのではないでしょうか。

ワルシャワのエコシステムにご興味がある方は、info@intralink.co.jp よりイントラリンクにご相談ください。また無料配信している週刊ニュースレター「欧州イノベーションインサイト」やFacebookLinkedInの公式ページでも、欧州の最新技術・エコシステムに関連する最新情報を定期的に発信しておりますので、ぜひご覧ください。

 

著者について

植木このみ(プログラムマネージャー)

オックスフォード本社にて、日本企業の新規事業開発及びオープンイノベーションプロジェクトの実行に携わっている。イントラリンク入社以前は、ロンドンを拠点とした日系メディアに勤務し、IT、自動車、金融、エネルギーなど様々な業界に携わる日本企業の欧州内での経営ビジネス戦略をサポートした。英国ラフバラー大学大学院にて、国際経営学修士号を取得。