• Sep.
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  • 28
  • 2020
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欧州イノベーションハブをめぐる:第6回
北欧のユニコーンファクトリー ストックホルム

シリーズ6回目は、欧州随一のイノベーション都市として知られるストックホルムを特集します。今回は、大学インキュベーターのKTH Innovation、また新たに弊社のイノベーションネットワークに加わったSting及びTHINGSと対談を行い、同都市の強みや特徴について話を伺いました。

 

ユニコーン輩出率世界2位の北欧最大都市

北欧のヴェネチアとも呼ばれ、13世紀頃からスカンディナヴィアの中心地であるストックホルムは、スウェーデン南東の大小14の島で構成され、メーラレン湖の河口に位置しています。同国20%以上の人口を占める北欧最大の都市ですが、その数は100万人以下、都市圏を含めても230万人と非常に小規模です。しかし、そのうち1/5の市民がテック業界に従事するストックホルムは、1人当たりのユニコーン企業数がシリコンバレーに次ぐ世界2位でユニコーン輩出大国として知られています。

 

1990年代の改革による高生活基準の創出

その背景には、政府による1990年代の経済市場改革で電力、テレコム、鉄道、航空などの国営企業の民営化や規制緩和で民間競争が促進された上、高速通信への投資や家庭用パソコン購入への助成金提供により、国民の94%がインターネットを使用するなどデジタルリテラシーも向上し、世界初の4Gサービスが開始されるほどインフラに優れた都市に成長した点が挙げられます。

さらに比較的低い約22%の法人税だけでなく、「Move to Stockholm」イニシアティブで、特に米国やインドから優れたテック人材を呼び込むなど域外のリソース獲得に注力する一方、非常に小さな国内市場であるため、初めから欧州大陸をターゲットとした「グローバル化」を進める企業も目立ちます。また最低5週間/年の有給休暇や寛大な育児休暇と保育システムにより、EUで最も高い女性の雇用率を誇るなど、その高い生活水準と労働環境の質も顕著なポイントです。

 

イノベーション指標における上位常連都市

あらゆるイノベーション指標において常に上位にランクインするストックホルムは、2019年のVC投資でも24億ドルでロンドン、パリに次ぐ3位となりました。またアーリステージ企業への投資額はグローバル平均の2倍となる9.4億ドル、エコシステムの価値総額においては平均105億ドルの4倍以上となる440億ドルを記録しています。2020年夏時点でストックホルムのユニコーンは計10社、さらに100万ドル以上の資金調達を行ってきた成長株のスケールアップも329社存在しています。

特にフィンテックでは、関連企業の資金調達額が昨年だけで約9億ユーロ、過去3年の合計では欧州3位の投資を受け、先日欧州一の企業価値を誇るフィンテック企業となったユニコーンKlarnaや、2018年にPayPalに22億ドルで買収されたiZettleなどがよく知られています。ユニークな点としては、270億ドルに上る破格の額で上場したSpotify、MinecraftやCandy Crushなどの人気ゲームを開発するMojangKingが活躍するミュージックテックやゲームテックの分野でも世界をリードしています。

 

北欧エコシステムをリードするイノベーション組織と教育機関

弊社のイノベーションネットワークパートナーであるTHINGSは、IoT、AI、モビリティ、ロボット、エネルギーなどディープテックに特化したスタートアップにコワーキングスペースを提供するだけでなく、国内外の大企業とのマッチングイベントを数多く開催し、スタートアップとのコラボレーションを促進する活動に注力しています。一方、Stingは300社以上のスタートアップをサポートしてきた北欧随一のアクセラレーターです。ポートフォリオには近年成長するディープテック、ヘルスケア、ソフトウェア、サステイナビリティ、フィンテックに強い企業を多く抱えていますが、通信機器(Ericson)、自動車(VolVo)、重電・エンジニアリング(ABB)、その他サービス(IkeaやH&M)など幅広い業界で活躍するスウェーデン企業の影響で、最近は若い起業家たちが多様なセクターでビジネスを展開していると言います。

国内最大の工科大学であるKTH Royal Institute of Technologyに付属するインキュベーターKTH Innovationは、学生と研究員が生み出す技術や知的財産の所有権を取得せずに、毎年300件の新しいアイディアの商業化を支援することで、彼らが安心して研究開発に取り組むことができる環境を生み出しています。また世界中に広がる卒業生のネットワークを通じ、定期的に新たな取り組みに関するビデオを共有することで、投資やパートナー提携に関心のあるグローバル企業から積極的なアプローチを受けることも多いそうです。

またストックホルムには他にもノーベル生理学・医学賞の選考を行うノーベル賞会議がある世界最大の医学系単科教育研究機関Karolinska Institutetや、欧州と日本及び東アジアに関連する経済・社会研究に取り組むEuropean Institute of Japanese Studiesを運営するStockholm School of Economicsなど、欧州内でも優れた大学が名を連ねています。

 

政府主導のイノベーション創出組織

スウェーデンは国を挙げて、GDPの3%以上をR&Dに投資してイノベーション創出に尽力してきました。特にストックホルムを中心にブリュッセル、シリコンバレー、テルアビブにも展開するイノベーションシステム庁のVINNOVAは、国内の研究開発活動への毎年約3億ドルの資金提供でエコシステムのバックアップ体制構築に努めています。またRISE Research Institutes of Swedenも多岐にわたる分野で国際提携支援プログラムを運営し、例えば市内のスマートシティ化推進のためUrban ICT Arenaというテストベッド(実証実験の場)を各組織に提供しており、2016年以降に60件以上のプロジェクトを実施した実績を持ちます。

さらにForbesが選出する「フォーブス・グローバル2000」のうち、67%がスカンディナビア本社を配置するストックホルムは、iZettleの事例に限らず、MicrosoftとMojang、CiscoとTail-f Systemsなどグローバル企業によるローカルスタートアップの買収を受けてきました。日本企業も2017年に電通イージス・ネットワークがデータ分析・デジタル広告運用のOutfox Intelligence ABを、2018年にNTTデータの独子会社がEinsvereinteを買収した上、2019年にはソフトバンクグループの太陽電池セルExegerへの出資及び戦略的パートナーシップ締結と近年動きが活発化しているように見えます。また今年7月の電動スクーターVOIへの投資など、国際協力銀行、ホンダ、パナソニック、オムロンなどが出資する北欧特化型VC、NordicNinjaを通した間接的な投資も目立っています。

 

持続可能なビジネススタイルを追求する起業家たち

現時点であらゆる規模の国内企業が国連の持続可能な開発目標をビジネスモデルに統合しています。環境問題だけでなく、では、元々の福利厚生の強みを生かし、ストックホルムエコシステム内で外国人女性起業家を支援する新たな取り組み、Stockholm Scaleup Programも始まっています。今後ますます環境規制や様々な格差拡大を食い止める動きが厳しくなると予測される中、地球へのポジティブなインパクトを求める起業家が多く、基盤の強いサステイナブルなビジネスを構築し、将来的に長続きする可能性が高い企業が多いのも特徴かもしれません。

 

最後に、、、

ストックホルムは欧州随一のイノベーションハブとして日本でも知名度は高いものの、英国やドイツなどの大国に隠れてしまい、なかなかその小規模ながらパワフルなエコシステムの全体像を把握するのが難しい都市と言えるかもしれません。しかし逆を言えば、協業という面ではどの業界に属する日本企業にも優れたスタートアップにたどり着くチャンスがあるだけでなく、世界2位のユニコーン輩出率から分かるように、投資でも高い成功率とリターンが期待できる都市でもあります。まず第一歩として、ストックホルムのエコシステムをしっかりと理解した上で、各社のイノベーション戦略に適切な機会があるかどうか、一度検討してみてはいかがでしょうか。

 

ストックホルムのエコシステムにご興味がある方は、ぜひ info@intralink.co.jpよりイントラリンクにご相談ください。また無料配信している週刊ニュースレター「欧州イノベーションインサイト」や弊社のフェイスブックページでも、欧州の最新技術・エコシステムに関連する最新情報を定期的に発信しておりますので、ぜひご覧ください。

 

著者

植木このみ