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  • 02
  • 2021
  • EUROPE PICK OF THE WEEK

欧州イノベーションインサイト: 第87回

『隠れたライフサイエンスハブ、カタルーニャ』、『CO2バッテリーのEnergy Domeが資金調達』、『仏エコシステムも過去最高記録を更新か』、『生産コスト90%削減を実現するラボミート技術』を取り上げた「欧州イノベーションインサイト:第87回」をお届けします。

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このニュースレターでは、日本企業のグローバル展開、新規事業開拓に役立つ欧州の最新イノベーション、エコシステム、テクノロジー情報を、毎週ピックアップして現地から配信しています。

 

隠れたライフサイエンスハブ、カタルーニャ

 スペイン北東部に位置するカタルーニャ州は、1200社以上(約半数)の国内製薬会社が拠点を置くなど非常に活発なライフサイエンスハブであり、近年は「BioRegion」とまで呼ばれるに至っている。ここに身を置くスタートアップは昨年だけで2億ユーロ以上の資金を集めた上、集中する研究組織、病院、大学、起業家の恩恵を受ける同地のライフサイエンスビジネスは、地域のGDPのうち7.3%を創出する活気に満ちたエコシステムを構築している。OECDによると、国家としてもスペインのバイオテクノロジー研究開発への年間公的支出は13.7億ユーロで、これはドイツと比較しても4倍の数字である。またBCGによるとビーチや印象的な建築物などの豊かな文化、またその他欧州都市と比べても30%程安価なビジネスコストを理由に、バルセロナは働く場所として世界で4番目に魅力的な都市に選出されている。またfDi marketsもカタルーニャへの外国投資から生じる人材採用が2010年代に120%以上増加したと発表している。さらにEMEA地域だけでなく、医療費だけで2760億ドルの価値があると言われるスペイン語圏市場へのアクセスの良さもその一要因となっている。カタルーニャは、優れた人材、労働環境、アクセス、域内におけるネットワークなど、強力なエコシステム構築には欠かせない要素が揃っていると言えるだろう。

 

CO2バッテリーのEnergy Domeが資金調達

 CO2を活用した大規模・長期蓄電技術を開発するEnergy Domeが、同分野で初の商業デモプロジェクト展開のため、1100万ドルの資金調達を行なった。2019年に伊ミラノで設立された同社は、ガス状のCO2で満たされたドーム型施設を使用した充電・放電サイクルを展開している。その充電サイクルは、電力網からの電力でドームからCO2を抽出し、コンプレッサーにより発生させた熱を蓄えた上で、CO2が圧力下で液化され、周囲温度で液体CO2容器に保管することで完了する。一方、放電時には液体CO2を蒸発させるとともに貯蔵システムから熱を回収し、高温CO2をタービンに送り出して発電機を駆動することにより、電力がグリッドに、そしてCO2も大気に放出されることなくドームに戻る仕組みだ。このバッテリーシステムは、最大200MWhの貯蔵容量を持つ上、80%近いラウンドトリップ効率と25年という長い運用寿命により、ライフサイクルや貯蔵にかかるコストをリチウムバッテリーなどの既存技術の半分程度に抑えることができるという。

 

仏エコシステムも過去最高記録を更新か

 フランス政府が2013年に発足したスタートアップ支援イニシアチブの「La French Tech」とともに拡大を続けてきた仏エコシステムが、今年もその記録を塗り替えることがわかった。仏スタートアップへの2021年のVC投資総額は、これまでに102億ユーロとなった一方、2000年以降に設立された国内テック企業の企業価値総額も1,790億ユーロにのぼり、その伸び率は2010年から17.7倍に増加している。これは、NFTに基づいたサッカーゲームのSorare(6億ユーロ以上)、マーケットプレイスプラットフォームのMirakl(5億ユーロ)、デジタルエクスペリエンス分析のContentsquare(4.5億ユーロ)などを筆頭に、2016年以降の大型資金調達ラウンドトップ15のうち、11回が今年だけで記録された点にも起因している。その結果、フランス発のユニコーン数も30社に達し、その数はオランダとスウェーデンを追い抜いた。また2016年以降のユニコーン増加率で、国家としてはスペインに次ぐ2位(7.5倍)、都市別ではパリが1位(8.3倍)と競争が激しい域内でもその存在感を光らせている。

 

生産コスト90%削減を実現するラボミート技術

2040年までに世界の食肉生産市場の35%を占める可能性があると言われている培養肉だが、今はその高い生産コストが課題となっている。そんな中、細胞培養肉の生産コストを90%削減するという画期的な方法を開発するGelatexが資金調達に成功した。2016年にエストニアで設立された同社は、細胞を育て、肉に構造を与えるための「足場材」として使用されるスキャフォールドを、多目的、安価、そして使いやすいナノファイバーで作成することでその高い効率性を実現している。このスキャフォールドなしでは、肉がパテのようになってしまい、肉の塊を作り出すことができない。現在多くの細胞培養組織ソリューションに採用されているエレクトロスピニングやハイドロゲル技術は非常に高価であり、将来的に細胞培養肉を裕福な企業や家庭だけが消費できるという状況に陥ってしまう懸念もあるため、90%というコスト削減への期待は高いようだ。なお、同社はトップアクセラレーターであるTechstarsのプログラムにも選出されている。

 

植木 このみ

Open Innovation Group, Intralink Limited

 

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